第1話:夜明けと共に 小説置場らしいですぜ (何に戻る→
一面にひろがる雲の絨毯が、橙色に輝いていた。
風は強すぎず弱すぎず、絨毯の上を撫でていく。夜が明けたばかりの空は、とても静かだった。
しかし、よく耳をすますと、かすかに音が聞こえてくる。
生物の鳴き声ではないことは分かるものの、小さすぎて何の音なのかはまだ分からない。
だが、すぐに段々と音が大きくなってくる。
どうやら、エンジンの排気音のようだ。
夜が明けたばかりの空を、雲の上を、一台のウィリーバイク(注:一輪バイク)が走っていた。ボディは、朝日を受けて、青く輝いている。
運転手は、丸い体の一頭身の人物。額には赤い宝石のようなものに、氷の結晶を模したようなオブジェがついたものをつけている。
そして、その人物の体もまた、青かった。
???1「いや~、気持ちいいねぇ~、早朝の涼しい空を走るのは…。」
運転手がそういいながら、辺りを見回す。
???2「そうだねぇ…。っていうか、まさかあのオウがこんな早朝から外に出るとは思わなかったよ。」
ウィリーバイクがそう運転手に返す。
カン「まあ、この時期は暑いから、たまには朝のドライブもいいかなー、って。
というかいつも思うんだけど、アルメス、せめてこっちの世界では"カン"って呼んでくれないかな?」
アルメス「えー。そんなのメンドくさいよ。第一、オウが分身体と普段とで名前を変えてるのがいけないんじゃんかー。」
カン「と言われましても…。変える気ないしなー…。まいっか。」
そんな会話をしながら、ウィリーバイクは特に当てもなさそうに雲の上を進んでいく。
アルメス「オウ。なんか先の方に城が見えるよ。」
しばらく経って、アルメスがそう言った。
カン「はい?城?」
アルメス「そう、城。お城。Castle。」
カン「え、ちょっと、めちゃくちゃ発音いいじゃん…。すごー。」
アルメス「自転車だから。」
カン「なるほど…。というか、今はウィリーバイクじゃんか。」
アルメス「そりゃ、こっちの世界ではしょうがない。だってオウ、その姿じゃペダルに足も届かないでしょ。」
カン「まあねー。…で、何の話してたんだっけか?」
アルメス「えっとね、英語講座だよ。だってほら、オウ来年受験生でしょ。だから今の内に勉強するんだよ。」
カン「ああそっか。えっと、今はどこだっけ。"あいらぶざもすとマター"のところだったっけか?」
アルメス「そうそう。Repeat after me. "I love the most matter."」
カン「あいらぶざもすとマター。…で、ホントに何の話してたんだっけ?」
アルメス「先の方に城が見えるって話だよ。…ほら、今はもう大分見えてきた。」
カン「ん?…ああ、ホントだ。」
話している間に、二人はもうその城の近くまで来ていた。かなり古いもののようだ。
屋根や壁は所々崩れ落ち、入り口の門は錆び付いて、その上倒れてしまっている。
まさに廃墟…いや、もはや遺跡とでも呼んだ方が正しいか。
カン「おー、すごー。まあ、今までにもこんな古い建物見たことはあったけど、まさか雲の上にもこんな古い建物があるとは…。」
アルメス「うーん、見た感じ、ざっと3、4万年前くらいに建てられたものっぽいね。」
カン「ほほー。ってことは何?ギャラクシアが作られたのと同じくらいの頃に建てられたってこと?」
アルメス「ちょっと惜しいね。ギャラクシアが作られたのは5万年前。正確には5万3718年前。」
カン「へー…そんでさ、この城、面白そうだからちょっと中を探検してみない?」
アルメス「えー…まあいいけど、気をつけてよ。崩れやすくなってるだろうから。」
カン「OKOKベリベリOK。ま、万が一のことがあってもなんとかなるでしょ。」
アルメス「そーいうときに限って何か起こるよねー。」
カン「うっ…。まあ1UP買いだめしてあるし…。」
アルメス「いやいやこっちはどうなるのさ。」
そんな会話をしながら、二人は城の中へと入って行く。
???「けっ!何だここは。近くに来てよく見てみればボロッボロだわ、中に入れば誰もいないわ!」
その頃、城の中では男が一人、文句を言いながら歩いていた。先程、突如宙に空いた謎の穴から飛び出してきた、あの男である。
体の色は緑。目はくりくりと色々な角度に動き、辺りを見回している。何かに例えるならば、カメレオンにとてもよく似ている。
しかし、その体系はやや…いや、かなり太め。貴族のような上品そうな服を着ているが、少しきつそうだ。
???「それにさっきも、妙な穴に吸い込まれたと思えば、こんな訳分からん所に放り出されるわ!全く、何なんだ!」
そのまま文句を言いつつ、しばらくボロボロの廊下を先へ進んで行く。
???「はあ~、やっぱり本当に誰もいないようだな。そろそろこんなボロ城とはおさらばするか…。」
そう言って、男が出入り口の方へ向かって行く。と、
???2「うおー、ホントにすげー。ボロッボロのボロッボロだ!」
???3「うん、確かにボロボロだね。でも、そこの彫刻とか、まだまだ形が残ってるものもあるみたいだよ。」
先の方から声が聞こえてきた。
???「ん?声がする…?だが、俺様がここに入ったときには誰も…いや、そうか。俺様の後に誰か入ってきたのか…!
ガハハハハハ!そうかそうか、人が来たのか!やっと、俺様の下僕第一号が来たのか!ガハハハハハ!
おっと、まずは少し観察することにしよう。使い捨てにするか、役に立ちそうか…グフフフフ…。」